国際野外の表現展2018-2019 出品作家紹介

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サイトスペシフィックな心

小野寺優元

 国際野外の表現展2018‐19は「サイトスペシフィックアートと地域創造」をテーマに、世界各地のアートイベントで活躍しているアーティスト21名の参加を得て、埼玉県比企丘陵の里山を舞台に開催されています。地域性をテーマにしたイベントは、今年「越後妻有アートトリエンナーレ2018」をはじめ日本各地で数多く開催されました。野外空間にアート作品を展示する動きは、1964年の東京オリンピックを機に、高度経済成長を追い風として各地で始まりました。その動機は初期の段階で、彫刻作品が野外空間に「棲家」を求めたことと、地域が経済成長の文化的ステータスとして彫刻作品を積極的に公共空間に設置したことがあります。現在、それらの「パブリックアート」と呼ばれ野外空間に展示された作品は、一部を除き、その場所や地域に起因する制作コンセプトに基づいた作品は採用されず、欧米の美術運動に感化された作品や中央で有名であるとされる作品が選ばれたため、地域の人々から全く見向きもされない存在となっています。しかしながら、このいわゆるパブリックアート設置のなかから、美術館やギャラリーといったホワイトボックスにおける展示では得られない、野外における空間的な配慮や地域性を考慮する視点も生まれ、現在では地域の野外アートイベントには、過疎対策の特効薬的な役割が期待され、アートの存在そのものの意味が大きく変化しました。

 「サイトスペシフィックアート」とは、アーティストが「場の記憶」ともいえる歴史、文化、風土さらに具体的には地形、水脈、風向、植生、土壌、暮らし、祭りといったその場固有の情報を読解し、そこで得られた概念とアーティストの心の奥底に染み付いて離れないオブセッショナルな情念とを融合して得られたものを制作のコンセプトとして表現されたアート作品です。結果としてこのアートは地域に潜在する価値を可視化し、その地域の人々が地域固有の価値を再認識するための契機とすることができます。現在、主に地形、水脈、植生などエコロジカルな要因に依拠して制作されたサイトスペシフィックなアートに出会うことが多いのですが、その地域に暮らす人々固有の心の有り方に寄り添うような考察も必要なのではないかと思われます。現代さらに未来の、人工的に加工された画一的な情報が日常生活を支配する社会にあって、人ひとりの心の有り方など取るに足らない存在として捨て去られるのかもしれませんが、個々の心の奥底に通底している情緒こそが、地域や人種の枠組を超えて、人間の普遍的な感情なのであり、人間が個々の尊厳を取り戻すために、民俗学的な考察も含め、その地域に深く根差した心の有り方への考察が極めて重要な視点であるとして捉えなおす必要があります。

 今年、越後妻有のトリエンナーレにも出品した、国際野外の表現展に長く出品している岩城和哉が、越後妻有でコラボしたオーストラリアの作家と作品の構想を進めるなか、地域固有の心の有り方の存在に気づくことがあったと話してくれました。それは、越後妻有という稲作専従地域にあって、人々は田んぼの水の安定供給に対して極めて敏感であり、「水は生命の根源的な存在」という人類共通認識以上に、米を育む水の存在が、人生あるいは生活そのものであり、DNAのレベルで水に対する思いがオブセッショナルな存在であるということが、そのオーストラリアの作家といくら議論してもサイトスペシフィックな意味での認識へ至ることができなかったというのです。同様に、インドネシア・バリ島は米を年3回収穫する地域であり、水を差配するスバック(水利組合)の決定は国や行政の決定より重みがあり、人々の人生および生活を大きく左右するのです。普段穏やかに暮らすバリ島の人々も、ひとたび水に関する争いが生じたときは、最終的な決着を得るには決闘も辞さないというのを聞き、水の存在に対する思いは同じようです。

 私達の心には、うれしさ、おどろき、いかり、あきらめ、おそれ、そしてこれらが複雑に交錯した感情があります。そしてそれらは個人的、家庭的、社会的な様々な環境に起因して形成されるのですが、併せて地域固有の要因に基づき形成された独特の喜びや悲しみの有り方、そしてその程度の差もあります。私達はそれらの多様な感情の発露を感受し共有することによって、人間としての感性の領域を拡大し、豊かなものにすることができるのです。サイトスペシフィックアートは、示唆するだけでなく、その地域の人々にとって必然的な心情の顕われにも気づかせてくれます。美術館やギャラリーでは出会えない、その場でしか成立しないサイトスペシフィックを「ethnicity:民族性」という視点と、「vernacular:土着性」という視点からもアプローチし、作品に見えかくれしている「emotionality:情緒性」を楽しんでもらいたいと思います。

 最後になりましたが「国際野外の表現展2018‐19」の開催にあたり、多大なご支援とご協力を賜りました関係各位に対し、心より感謝申し上げます。


国際野外の表現展2018-2019 参加アーティストの作品


2018-2019 出品作家 ARTISTS
賀川友里+坂本友香+小林稀恵子 KAGAWA Yuri + SAKAMOTO Yuka + KOBAYASHI Keiko
児玉士洋 KODAMA Shiyo
望月月玲 MOCHIZUKI Getsurei
長野真紀子 NAGANO Makiko
李 相弼 LEE Sang-Phil
李 宣周 LEE Sun-ju
赤松功 AKAMATSU Isao
沼田直英 NUMATA Chokuei
羽山まり子 HAYAMA Mariko
鄭 惠寧 CHUNG Hye Ryung
佐藤偉仁+鶴屋忍 SATOU Hideto + TSURUYA Shinobu
石坂孝雄 ISHIZAKA Takao
野口栄一 NOGUCHI Eiichi
秋山秀馬 AKIYAMA Shuma
松井ゆめ MATSUI Yume
長田淳一 NAGATA Junichi
金田菜摘子 KANEDA Natsuko
木村勝明 KIMURA Katsuaki
尾形勝義 OGATA Katsuyoshi
山崎美樹 YAMAZAKI Miki
東京電機大学岩城研究室 TDU IWAKI Laboratory



国際野外の表現展2018-2019 作品展示位置 アート作品展示位置




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